堀米庸三と札幌2

東京に戻り東大に勤め始めた頃の一シーンを書いた文章のなかに札幌の記憶に関するものがある。堀米さんが日本橋の今もあるか知らぬがぼなーるという喫茶店を訪れる。ボナールはフランスの画家で昔は結構流行った。ボナール自身は素朴な人で長年連れ添った嫁さんにした人が際ものでそれに晩年死んだのにその親族に苦しめられたことが昔の芸術新潮に出ていた。彼はそこへ行くのを楽しみにしている。そこにはユトリロの一枚の本物ではないがあった。それを見て堀米さんはこう感慨する。「多分、札幌から東京へ居を移して間もない頃だった」「一枚の絵が目に留まり釘づけにされてしまった。それがユトリロだった」それはアンス風景という田舎町の風景画だった。

「この絵を最初に見て感じたのは、そこにある光のなんともいえぬ清々しい明るさであった」