息子の帰還2-1

彼がうちの父の事務所にやってきたはもう30年ほど前だ。父もまだ壮年の弁護士で働き盛りだった。そればかりでなく夜な夜な近くの飲み屋に繰り出しては午前様の日々でもあった。ぼくの仕事については父も跡継ぎを期待していたが父親譲りの飲んべえで司法試験には落ち続け結局別の法律関係の仕事についた。それで資金もなく父の事務所の一角で共同とは言うものの全てお金は父親持ちで仕事をさせてもらっていた。それほど広くない事務所では目の前で依頼者と父との法律相談をみることになる。彼の相談は労働事件、端的に言えば大した金額ではない給料の未払いだった。生まれた土地から随分離れたこんな土地の運送会社に勤務しそこで巻き込まれた事件だった。僕の勘では父はこんな少額な件受けないだろうと思ったが案に相違して受けた。彼が喜んで帰ったあと父は気になったのか彼の顔のハンデを話した。その内容はそれほど酷いものでないとしてもちょっと言えない。父の何人かの兄弟姉妹の中には同じようなハンデの人がいたのかもしれない。それがなんとなく父の性格に触れるものがあったのだろう。でもそれは最早聞くことはできない。