ある株主総会三

彼が自分の中でどう思ってたか分からない。或いは自分は気難しい性格で些細なことにもこだわり、人とは打ち解けずらい性格の持ち主と思ってたかもしれないのだが(ある意味そういう要素も窺われたが)しかし彼が他人に接するときはにこやかな笑い顔を浮かべ、決して何かを隠さず、また他人の意見や意思にも反せず、まっすぐに自分と接してるんだなと思わせる感じがした。彼にとって難題のような言葉を誰かが発したとき、一瞬きょとんとする顔になるが、すぐに元の笑い顔をして、その意味は自分ではこういう良い意味として受け取ってます、という応対をした。この性格は先代の社長とは大きく異なり、先代が亡くなってから彼が社長になって以降、已然にもましてその食品会社の業績は上向いた。労働組合があって古手の専従の組合員もいたが、彼が社長になってから、何かやりにくいんだよな、と周囲にも漏らし、それだけ彼が社長として以前からの労使の関係をある時は強くある時は時間をかけて放置するなどして巧みに問題点を解消していくことに、回りからも以前の社長とは違うという期待が上がっていた。そんな彼が私のことも気にかけ遠い土地とはいえさほど難役とも言えない監査役のポストを斡旋してくれるのは経済的なものばかりでない私との繋がりを重視してくれているようで今回の出張は列車に乗る前から私の心のなかに弾むものがあった。