帰還2

北国への赴任は決心の上だったがわだかまりは心の片隅にあった。妻の正子は赴任先を聞いて一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに夫の周辺で何かの変化が起きたのだ、それも夫の方で周囲に自分の気持ちを伝えた結果だ、と察し、そうなのと押さえ目な口調でいったあとは黙ってその結論に従った。関西への赴任だとそれを楽しみにしていた二人の子のまだ幼い姉妹に其をいつどう話そうとの懸念はあったが、それを夫が決めてきて今からはその事後処理をしなければならない夫の負担に比べれば当然軽い仕事の役割だと一人納得した。でもあんなに東京なんかより文化があると言っていた夫、その文化のなかで日本史ではないにしても歴史の教官として過ごすことにそれなりの期待と希望を持ってだろう夫が、まぁ北国出身者とはいえ、更に極寒の地に赴任することに何のよろこびを見いだそうとしているのか、さっぱりとした夫の気性をかてて加えてもその心配が☝からの生活先の不安より先立ってあった。禎一は妻の正子の積極的反対がないと安心したかのように、一服煙草に火をつけソファーにどっかりと座った。