野火のごとくに生き、詞詩の花の下でも3

世の中には多分多くの人は周囲に看取られ死んでいけると信じてるのだろうが、いやそうとばかりは限らないものだと信二は近松の死に接してそう思った。彼と学校を出て以来何十年後かに再会したとき出た話題にはその種の翳りのようなものを感じた。その以前のことだった。この十個の詩の朗読の担当をし近松はそれなりに用意しようとしたのは。その後に起きたことから照り返せば、やはり近松には生きてる焦りみたいなものがあったのかもしれないなと信二は振り返って思うのである。

その詩の中には黒木瞳の詩も選ばれていた。それを興味深げに読んで、眞下は朗読を始めた。近松はそれを「こういう詩は男が読んでも女が読んでもひっかかり、まぁあまり一般受けはしないよな」と制するものでもなく、やんわりと批評した。その言葉で信二は高校時代の現国の一シーンを思い出した。それはある詩をめぐってのベテランの女教師と近松との解釈の対立だった。近松は何が気に入らないのか、授業の最中の詩の解釈をするその教師の説明をやや大きな声で「それはそうじゃないよ」と止めた。一瞬教室内はシーンとなった。