野火(やか)の炎の如く生きよ7

その後、近松と信二は二人だけで近くの酒場によった。真下は一緒を躊躇ったので、まぁ良いよとは言ったけど、近松は信二とだけ帰りたい感じを信二は受けた。それで真下のビルを出て、近松の行きつけのスナックに行くこととなった。その店に入るとカウンターだけの小さな店で客はいなく、ガランとしていた。近松はいくつかのそういう店にたまに顔を出す程度のようだったが、それでも何時もどこでも歓待されてる感じを信二は受けた。そういう店に共通してるのはどの店もおばさん、それもかなり酒場歴のあるおばさんが、あまり他に女の子を使わずにやってる店というところだった。その店のママは近松の顔を見ると、アッらいらっしゃい、とはしゃぐような声を最初出した。その後も、なんとなく浮き浮きとした感じで、漬物を出したり小イワシの焼き物などを出してきた。近松はママと話してたが、その話しぶりは、ママが話す内容を少し揚げ足を取るような話しぶりだった。それにママが反応して、笑うと近松は個別の会話には入らず、人生ではどうだとか、そんな一般論にすり替えて話を続け、そりゃそうね、とママが応じると、適当に笑いでごまかした。妙に男と女の会話ではないような気に信二はなった。ママ達には一様な生活の疲れみたいなものも感じ、信二は会話にも入らず、カラオケを専念するように歌った。信二の歌うときの声は高音で変声期を経験してないような声だった。近松は歌わず、その日は酔うと決めてたように、飲んでママとくだらな話をしていた。何曲か歌い、他に客もこない感じがしたとき、ママは「こんちゃん(その店では近松はこんちゃんと呼ばれていた)あれやってよ」とせがむように言った。近松は信二の顔を一瞬見て、ヨウシと立ち上がり、「楽屋、楽屋、」と言って、カウンターの内側の客の椅子からは見えない場所に隠れた。近松は結構酔っていた。ソレを見計らってママが声をかけた感じが信二にはした。やがて、予めママが入れたカラオケの曲を大音量にしたときに近松は現れた。