キサク(1)

「おじさんこれ払ってよ」、少女が押し付けたのは一枚のガス代の払込用紙。「先月は寒かったから結構かかったよ」などとおっかさんのやうに言い、「おじさんなら大丈夫わかってる」と柔らかくごまかした。何度か市バスの待合いで顔を合わせた程度、なんか遠く見てるやうな時もあった。狙ってたのかもしれない。イヤ狙ってたのは自分の方だ。少女は器量良しだった。スラッとしてた。取りあえずお金を用意した。なんかのきっかけで他人と知り合う、その他人が命がけの勝負をしてくる。女は猫だから警戒心が強い。だから珍しい。できることはお金を用意すること、それくらいしかない。善意の受け皿になることだ。しかしその払込用紙を受け取った後、少しの間その少女とは顔を見合わせなかった。やられたか!喜作は思った。