妾の生涯5

彼女の裁判というのは呆気なく方が付いた。裁判所で弁護士と一緒にでかけたのが肩透かしになるかのように父親は出廷をせず、さらに裁判官は弁護士双方に本件は自分の考えでは親子間に法律上の親子関係がないというのではなく、何やら法律上の親子関係はあるがソレを否認する裁判が相当だと説諭し、その上で彼女側の弁護士にこの申立は取り下げたらどうかと促した。その上で次の期日には判決を出すのでそれまでの間にリアクションするようにと命じた。裁判官がそう宣言したあと帰ったあと、父親側の弁護士が済まなそうな顔して出て行ったあと、彼女の代理人が少しの時間を取って説明してくれた。彼女は裁判が始まるものと期待していたのを打ち砕かれたけれど、弁護士の一つの言葉に救われるような思いを抱いた。「お父さんはあなたがお母さんから生まれたことを否定する事はできないのよね」。あなたは嫡出子なのだからソレを否定したくてもそれはできない。彼女はソレを聞いて、自分はどうしたって、父親がどう思おうと、むすめとして扱われるべきだったのだと、安堵に似た気持ちを抱いた。私は生まれながら彼の子供なのだ、法律はそう教えているのだ、と弁護士の説明が進むにつれて励まされる気持ちに段々となった。一方でそれだから彼のやった事は許されない、さらに戦おうという気持ちも深まった。彼女と弁護士とは作戦会議ということでこの後会う日程を決めて別れた。裁判所を出るときの様子気持ちが弾んでさえいるように見えた。