衣縫う母3

しばらく待つと自分の番が呼ばれた。相手担当者は男性だった。いくつか質問したかったがそれは簡単な事ではなく、持ってきた兄との関係を示す改正前原戸籍(これは高木の兄が何時上京し、その後渋谷区のマンションに移ったこと、その以前の移る前の元の町での家族関係を示すものだが)それでは「委任関係」が明白ではなく今回では方が尽かず、再来かなにかしてほしい、という返答になる事を申し渡された。これはなんか変ではないか、自分が来たからにはある範囲までは知らしめてもいいのではないか、と反駁してみたものの、結論は変わりそうもなかった。ここに大きな誤解があった。年金事務所側ではそれなりに資料は用意されていた。しかしそれは繋ぎ繋ぎの資料であって、それを厚生年金国民年金のリンクをしたり、合算したりするのはあくまで本人確認をした上でその話を繋いで持っていく類のことらしい。最後に担当者の上司が出てきて説明を受け初めて理解したのは、兄は部分的部分的、或いは断片的断片的には通算すべきいくつかの期間があるのだがその一つ一つは十年の納付期間をクリアしておらず、そういう充足対象に対しては既に要件充足ということで給付の決定はなされており、然るに兄はまだ未充足なので、それを確認したく高木が手にしてた葉書を送ったのだということだった。なんだまたこれから調べるのかと落胆も高木はしたが、一方その説明の中で大学に在席してた期間もその合算に通算できると聞いたことは多少の朗報だった。それにしてもおふくろはいつから兄の為年金を支払い始めたのだろう。それと兄が大学を除籍になり少しの期間働いていたがそれは何ヶ月になるのだろ。それらを合算すると今年金事務所で保管されてる資料で最低の機関である十年120ヶ月を満たすのだろうか。そう思いつつ高木は家路についた。少しばかりの期待感はあった。それと同時の希望としておふくろの意思は報われるのだろうかという哀しみを伴う形であった。

 

その晩高木は夢を見た。おふくろらしきおばさんが縫物をしていた。それは最初は学生服のように見えたが、いや違った。それは濃紺色の軍服だった。それの首回りの盾を只管おふくろは丹念に縫っていた。それは出世を願ってのものなのか、違う目的なのかは顔も見えのぬでわからなかったが一つの感情にとらわれて縫う、しかもその全体の動きにはその後のおふくろの兄への感情も込められて、いくばくか哀れみを持つ表情、さらに言えば表現だった。高木その夢を見ながら少しばかり泣いていたような気持ちが後から起きた。