衣縫う母2

その葉書というのは年金制度が変わった為に生じた変化に基づくものだった。高木の認識では以前は成人してから25年程保険料を支払わないと年金の受給資格がなかった。その法制が変わったらしくそれ期間未満でも少額だが受給されるようになった。高木はこれはいい制度改革だと思った。それと同時に兄の為に恐らくは保険料を払い続けただろ母親の事を思った。「多分彼女は長男のためにその老後を考えてなけなしの自分の金の中から支払いをしたのだろ。」父親はその点は無頓着でいつか社会復帰できると信ずるだけで具体的な方策を考えなかった。今のような病状から抜け出し得ない事を敢えて想定せず、ただ面会すれば何某か豪勢な食事をしてただ励ますだけだった。彼には何も隠すべきものはなく母たる彼女には多くの隠すべきもの、将来の心配があった。そうした態度を理解してる高木にはどちらかというと母親の方の未来予想図に共感を感ずるところがあった。しかしその母親が具体的に何をしたかはその年金事務所を訪れた時点では何も分かっていなかった。それ故高木には若干の心配があった。