犬のモウショ13

丘の上の家は灯りが灯っていた。着くと中から唄うような声が聞こえ、かなりの大きさだった。僕らは壊れた玄関から中を覗いた。奥の部屋に蓄電式のキャンプ用のランタンが2つ入り口にかかっていた。その中はさらに明るくベッドの影が部屋の壁に写し出されていた。奥の部屋のドアも壊れていていつでも誰か出てくる気配があった。僕らはそうっと建物の中に入った。妹が先頭で僕とモウショが続いた。少し暗がりを進んだとき突然男の唄が止まった。双方に警戒感が走った。部屋の中の灯りが消えた。僕らは立ち止まった。その時モウショが突然うなった。犬の声を聞いて一人の男が部屋から出てきた。ランタンの光の中に黒人の、それも若い感じの男の顔が浮かんだ。男は不審そうな顔をしモウショを見てちょっと驚いた顔に変えた。男はモウショに「azu  azu」と呼び掛け腰を屈めモウショに手招きした。モウショが右の前足を床と水平に手をこまねるような格好をすると男は部屋に戻り青い首輪を持って出てきた。モウショはその青い首輪を見て唸り声を、以前より大きな声で上げた。モウショが逃げるような抗うような格好をしたので黒人の男は側に小さな妹がいるのを認めじっと見つめ笑顔のようなものを顔に浮かべた。男は妹に部屋に入るようにと素振りを見せた。妹は逆らわず部屋の中に入り男が命じるようにベッドの上で足を伸ばして座った。男は妹の着ていたプラス十字柄のブラウスを脱ぐように仕草とフランス語かで言った。妹はそれにも従った。僕には妹が何かの実験台になろうとしている感じがした。妹の胸がはだけた時を黒人はベッドに上がり妹に近づいた。僕は怖くて立ちつくしたままだった。男が胸の中に手を入れようとした時、妹は両手を前に出した。その時妹の右手が開いた。そこから赤色の布が落ちた。それと同時にモウショがベッドに上がりその赤色の布を口に含んだ。途端にモウショは不思議な力を得たように仁王立ちの格好でベッドに立った。それからやにわに男に向かっていき男の首筋を噛もうとした。何度もそうし、ベッドに着地しては更に更に攻撃していった。黒い男はそれを避けるためベッドからずり落ちた。男はモウショの攻撃を何度かかわすうち腹に巻たベルトにつけてた十徳ナイフを取り出しナイフの刃を拡げた。モウショが最後のアタックをしたとき男はナイフを上に挙げその喉に刃があたった。モウショは着地できずドスンとベッドの上に倒れた。赤い血が大量に流れシーツを染めた。ベッドのシーツは青色だった。モウショはそれでもパパが昔言っていた妊娠したときママがしていたという空に自転車を漕ぐような格好を何度かして不意に止まった。その時家の玄関口からどやどやと沢山の人が入ってくる音がした。男は素早くナイフの刃をしまい込んだ。妹も胸のはだけたのをボタンをして隠した。僅かな瞬間だった。警察官が部屋の中に入ってきて男を見た様子で大した尋問もせず捕まえた。警察に連絡したのは隣家のおばさんで子どもたちだけで家の中に入っていったのを心配したからだが、彼女にとってはそこに犬がいたか否かはさしたる問題ではなかったのだろう。