犬のモウショ12

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それから少しして僕に妹が一度あの丘の上に行きたいと話をしてきた。ママには内緒の話だった。妹はモウショの秘密はそこにあると言った。おばあちゃんの話でもモウショが来たときと丘の上の家で飼われていた犬がいなくなったときとは符合していた。その話が最初に出たときは僕は行くのは嫌だった。妹はそれで自分の様子のこんなことも言った。最近夢の中では私はいつも寂しい。そして必ず何かと別れた後の悲しみを感じる。それが何かは分からない。でもその夢のとき、女性の声で上に昇りつめるような悦びの声が聞こえてきて、それがママの声に似ている。

僕がそれまでの妹をどれだけ考え思っていたか、それは相当なものがあったと今でも思う。しかし妹が当時何を考えてたかを深く理解してたかというとそれは微妙だ。妹が何を苦しみ何を思っていたか、そして何に克服かとうとしてたか、それに気付くことが自分は少なかった。今にして少し言えることは多分妹はママを悩んでいたのだろうということだ。手の不具合ばかりではなく、いわば巡り合わせというかマッチングみたいなことだったのだろうと思う。ママの或いはママとのわずらいを自分一人で引き受ける自分のポジションを無意識に考え、そういう存在になりたくはないという葛藤だったのじゃないだろうか。両親から背負わされた人生と自分一人で生きてかなきゃならない人生、その重ねあわせを僕も妹も生きている。それがその頃になり一歩前にいかなくてはならなくなっていたのだろ。そのきっかけはモウショが家にやってきたことだった。モウショが来て二年、モウショは大きくなった。僕らは心のなかでその成長を待望していたのではなかったか。妹が決めた何かする日、それは最初から妹が自身で決めるだけだった。猛暑の夏に入り程なくその日はやって来た。赤い三日月の出た夕方だった。僕ら三人は妹が発案する形で丘の上の廃墟の方に向かっていった。 僕には半分軽いノリもあったけどしかし残り半分は不安で不安で心の余裕は全然なかった。   

 

(本編は16の本当のエンドで終わる予定です。)